TOP > 英揮ブログ > 『ドライブ・マイ・カー』感想
Mr.井出のオススメ映画
2022/04/21

『ドライブ・マイ・カー』感想

英揮ブログ


今回ご紹介する映画は、アカデミー賞の国際長編映画賞部門を見事受賞した「ドライブ・マイ・カー」になります。

以下、あらすじです。



あらすじ


ある日突然、
妻の音を失った舞台俳優兼演出家の家福悠介(西島秀俊)。

妻の死から二年後、
悠介はある演劇祭で演出を担当することになり、
十年以上運転し続けている愛車で広島へと向かう。

演劇祭の運営側の取り決めにより、
専属ドライバーの渡利みさき(三浦透子)をつけられることになった家福は、
はじめのうちは自分の愛車を他人に運転されることに抵抗を覚えるも、
次第に彼女に心を開いていく。

第一次世界大戦終結のためにロシア帝国のラスプーチンに接触しようと現地に向かうふたりだったが……。



賛否両論は納得だが……「ドライブ・マイ・カー」の魅力


映画「おくりびと」が国際長編映画賞を受賞したのが今から12年前

そもそも邦画がアカデミー賞にノミネートされるのすら稀で、
70年以上続いている賞レースでノミネートされたのが14作品と、
5年に一度あるかないかというのが現状。

そんな中で「ドライブ・マイ・カー」がアカデミー賞を受賞したのは快挙中の快挙で、
両手放しで喜ばずにはいられません。


しかし、日本国内での今作の評価はそう高いものではなく、
「わかりづらい」とか「抽象的」といった感想があちこちに見られます。

実際、今作の上映時間は全体でおよそ3時間
オープニングが流れるまではなんとおよそ40分(!)と非常に長尺のうえ、
アクションなどの見栄えするエンタメ的要素が皆無のため、
わかりにくいことは確かです。

ですが、
今作が賞を取るのにふさわしい作品であることには変わりありません。


ストーリーをざっくりと説明してしまえば、
主人公である家福が『ワーニャ伯父さん』という演劇を通じて妻の死から救われる物語、
といったところ。

劇中劇と登場人物の心境をダブらせるという手法はそこまで珍しくはありませんが、
見ていて飽きがまったく来ないのは、
映画を観ているにもかかわらず造りがまったく映画的”でないから、
といった不思議な魅力に集約されると思います。



物語ではよく見られる「登場人物が感情を爆発させるシーン」だとか、
「一難去ってまた一難」的な物語における山場だとか、
コミカルなトラブルやアクシデントだとか、
感情的な場面で鳴り響くクラシック音楽だとか、
そういった映画的な要素がこの作品には一切ありません

そういった意味では、
ドキュメンタリーを見ているのに近いところがあったような気がします。


“映画的”な要素の排除はカメラワークでも意識されているようで、
全編にわたってカメラがガチャガチャ動くような場面は一切なく、
どれだけ大きな事件が作中で起きようとも、
どこまでも淡々と描かれていました。


“映画的”な要素をとことん排除し、
空いたスペースにこれでもかと詰め込まれたのが余韻です。

詫び寂びと言い換えてもいいかもしれません。

普通の商業的な映画なら上映時間短縮のためにカットするべき場面
――例えば、車を運転しているだけの場面など――が、
この映画ではまったくカットされていません。

上映時間が長いのは、
こうしたある意味では無駄なシーンのせいではあるのですが、
こういったシーンのおかげで作品全体に余韻が生まれ、
今作を現実世界の延長として捉え、
体感することができるような造りになっているのだと思います。


ストーリーは賛否別れるものなのであえて省きますが、
俳優陣の演技は軒並みすばらしく、
とくに、才能はあるものの人間的に問題のある俳優、
高槻耕史を演じた岡田将生の演技は終始見事でした。

岡田将生の整いすぎた顔立ちが、
人間性の欠如した俳優という役柄にやけにマッチしており、
今後、彼の出ているドラマや映画を観たら、
「ドライブ・マイ・カー」での演技が頭にちらつくことは間違いないでしょう。

彼の演技を見たジェーン・カンピオン監督(映画『パワーオブザドッグ』にてアカデミー賞監督賞を受賞した女性)が、
授賞式で彼を見るなり「バッドボーイ」と称えたというエピソードまである辺り、
まさに怪演だったのでしょう。


上で書いた通り上映時間が長く、
また人を選ぶ作品なので、
映画館にまで観に行くというのはあまりおすすめできません。

ただ、アマゾンプライムなどで有料配信が始まっていますので、
気になった方は観てもいいのではないかと思います。



『ドライブ・マイ・カー』公式サイト
https://dmc.bitters.co.jp/

関連記事