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2022/07/29

時間の数え方

英揮ブログ
 

外国語について何か見知ったときに、
日本語との共通点を見付けちゃうとちょっと楽しくなりませんか?

スペインなどの昼休憩・昼寝を指す「シエスタ」、
日本語で午後の間食を指す「おやつ」。

両方とも昔の時間の呼び方から来ているものですね。

結構有名な話なので知っている方も多いんじゃないかと思います。

ではそれぞれどんな時間の数え方をしていたのでしょうか?




定時法と不定時法


「シエスタ」は古代ローマで使われていた時刻制度から来ています。


「おやつ」は鎌倉時代あたりから明治初期まで使われていた日本の時刻制度から。

時代も地域も遠く離れていますが、
この二つに共通するのが「不定時法」であるということです。


現在の私たちが使っている時間は「定時法」です。

1日24時間で、1時間の長さは昼夜や季節を問わず同じですよね。

何を当然のことを、と思うかもしれませんが、
これは機械式時計の発達により一定の時間を正確に刻めるようになったから。

それが無かった時代、日が昇っている間は昼、沈んでいる間は夜、が基準でした。

昼と夜の長さ、それによって決まる各々の時間の長さが
季節によって変わるものは「不定時法」といいます。


東京だと夏至と冬至で大体5時間くらい日照時間に差があります。

そんなに違ったら困らないのか、と我々なら考えますが、
現代のように分単位、秒単位で時間に追われる生活様式ではないので
当時の人々にとっては大した違いではなかったのでしょう。

ちょっと羨ましい…


諸説あるらしいですが、一応日本でも平安から奈良時代にかけての宮廷で、
漏刻という水時計によって定時法が行われていたようです。

その時刻制度での最小単位が現在の3分間らしいので、かなり細かく刻んでいます。

ただ、装置自体がかなり大掛かりで人員も必要、
気軽に持ち運んだり出来るような物ではないので、
武家の時代になるにつれて戦場で時刻を知るには不便過ぎる…
となったかはわかりませんが、そのまま廃れていってしまったようです。



古代ローマの時刻


まず、日の出から日没までの日中”diēs(ディエース)”と、

日没から日の出までの夜”nox(ノクス)”に分けます。

それぞれ12等分し、時間の早い方から1から12の数字を振ります。

等分ではないにしろ、1日を24分割している点は現代と同じですね。

昼も夜も12等分した時間の長さを”hōra(ホーラ)”と言いますが、
これが英語の時間を表す”hour”の語源になっています。

表記的には“hōra“+ローマ数字か序数詞で、日本語では「第~時」と訳します。

これだと昼だか夜だか分からないので、
“diēī(ディエーイー、「日中の」)”や、”noctis(ノクティス、「夜の」)”
を付ける場合もあります。書いてなければ文脈から…

現代の12時間表記みたいな感じですね。

基本はこれで完成なのですが、
夜を4等分して数える「夜警時(vigilia)」という区分も使われていました。

この場合、数字は使わず序数詞のみのようです。

 

例:日中の第6時
  hōra diēī VI / hōra diēī sexta

   夜の第12時
  hōra noctis XII / hōra noctis duodecima

   第一夜警時(夜の第1~第3時に相当)
  prima vigilia

 
この日中の第6時が「シエスタ」の語源です。

大体現在の午前11~12時くらい。

“sexta(セクスタ、「6番目の」)”部分だけが残った感じです。


因みに、午前/午後をa.m./p.m.と書いたりしますが、
これはラテン語を略して書いたもので、それぞれ
“ante merīdiem”と”post merīdiem”です。

日中の第6時が終わったとき、つまり第7時が始まるときを
“merīdiēs(メリーディエース)と言います。

意味的には昼の中央、正午のことです。

これに”ante(アンテ、「~より前」)”を付けて午前、
“post(ポスト、「~より後」)”で午後、ということです。



江戸時代の時刻




「一挺天符枕時計」
画像:セイコーミュージアム銀座

https://museum.seiko.co.jp/collections/traditional_Japanese_clock/collect007/


天文の分野や暦を計算する上では1日を24等分する定時法が使われていましたが、

普段の生活においては不定時法が使われていました。

まず昼と夜に分け、それぞれを6等分します。

1日が12分割されるわけですね。

その分割された約2時間ずつの長さを「刻」や「時」と言います。

それぞれに十二支を当て嵌めてあって、
「子の刻(ねのこく)」「午の刻(うまのこく)」などと呼びます。

現代の24時間制と対応させた表がこちら。





6時と18時になっているところは実際には日の出と日没です。


季節によってこの表からは大分ズレます。


初刻は各刻の初め、正刻は各刻の中央のことです。

今でも昼の12時のことを「正午」と言いますよね。

午の正刻のことで、これより前が午前、あとが午後です。

各刻の正刻に鐘を鳴らして時刻を知らせていました。

鳴らす鐘の回数は表を見てもらうと分かりますが、
子の刻が9回でそこから1つずつ減っていき、
午の刻でまた9回に戻ってそこから減っていきます。

この鐘の回数を時刻名としても使っていました。

「おやつ」は「八つ時(昼八つ)」から来ているわけなので、
何かしらの8番目の時間なのかと思いきや、全然そんなことありませんでした(笑)


何故この回数なのかという話ですが、
暦や時間を管理していた陰陽師の人たち的には
奇数が縁起の良い数字とされていて、
1桁で最大の奇数である9を基準にして、
2倍の18、3倍の27…
でも鐘を叩くのには多すぎなので十の位は省略、ということらしいです。


今回表には入れていないのですが
「夜半(やはん)」「日中(にっちゅう)」などの
漢字2文字の名前もそれぞれ付いているみたいです。

同じ時間でも呼び方が沢山あって面白いですね。

シエスタでおやつの夢を見ている馨でした。 

 

参考
国立天文台 暦Wiki「定時法と不定時法」
https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/BBFEB9EF2FC4EABBFECBA1A4C8C9D4C4EABBFECBA1.html

セイコーミュージアム銀座「機械式時計がもたらしたもの」
https://museum.seiko.co.jp/knowledge/relation_03/

近江神宮「漏刻について」
https://oumijingu.org/pages/167/

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